フィールドワークにおいて、フィールドノートは単なる「記録」ではない。それは、観察と解釈の間を行き来する、研究者の知的営みそのものである。
しかし、フィールドノートの「書き方」について体系的に学ぶ機会は、大学院教育の中でも意外と少ない。本稿では、筆者自身のフィールドワーク経験を踏まえ、実践的なノートの取り方と、それを分析につなげる方法を紹介する。
3種類のノート
筆者は、Emerson, Fretz & Shaw(2011)の分類を参考に、フィールドノートを3つのレイヤーに分けて記録している。
ジョッティングス(jottings):現場でメモする短いキーワードやフレーズ。スマートフォンのメモアプリで十分。重要なのは、後で思い出すための「トリガー」を残すこと。
記述ノート(descriptive notes):当日中に書く、できるだけ詳細な記述。「何が起きたか」をできるだけ具体的に、五感を使って書く。解釈は入れない。
分析メモ(analytic memos):「なぜそれが起きたか」「何を意味するか」についての省察。記述ノートとは明確に区別して書く。
デジタルツールの活用
近年はデジタルツールの発達により、フィールドノートの管理方法も多様化している。筆者は Obsidian を使ってノートを管理しているが、重要なのはツールの選択ではなく、「3つのレイヤーを明確に区別する」という原則を守ることである。
デジタル化の最大のメリットは、検索性とリンク可能性にある。分析段階で、異なる時点のノート間の関連を発見しやすくなる。これは紙のノートでは難しかった作業だ。
ノートから分析へ
フィールドノートは書いて終わりではない。定期的に読み返し、コーディング(テーマの抽出)を行うことで、データから理論を構築していく。このプロセスについては、次回の研究ノートで具体例を交えて解説する予定である。