質的研究に対して、「それは主観的ではないか」「再現性がないのでは」という批判は、今なお根強い。こうした指摘に対して、質的研究者はどのように「妥当性」を主張してきたのか。
本稿では、Lincoln & Guba(1985)が提唱した信頼性(trustworthiness)の枠組みを出発点に、質的研究における解釈の妥当性をめぐる議論を整理する。
Trustworthinessの4基準
Lincoln & Gubaは、量的研究における内的妥当性・外的妥当性・信頼性・客観性に対応する形で、以下の4つの基準を提案した。
Credibility(信憑性):研究結果が、参加者の経験を忠実に反映しているか。長期間のフィールドワーク、メンバーチェック(参加者による確認)、三角測量(トライアンギュレーション)などの手法で担保される。
Transferability(転用可能性):研究結果が、他の文脈にも適用可能か。これは読者の判断に委ねられるが、研究者側は「厚い記述」(thick description)を提供することで、判断の材料を提示する。
Dependability(安定性):研究プロセスが一貫しているか。外部監査(audit trail)により確認可能。
Confirmability(確認可能性):研究結果が、研究者の偏見ではなくデータに基づいているか。リフレクシビティ(研究者自身の立場性の省察)が重要。
40年後の再評価
この枠組みは発表から40年近く経った今でも広く参照されているが、近年では批判的な再検討も進んでいる。特に、「量的研究の基準に対応させること自体が、質的研究の独自性を損なっている」という指摘は重要である。
質的研究の強みは、数値化できない人間の経験の深層を捉えることにある。その妥当性の議論も、量的研究とは異なる独自の枠組みで展開されるべきだろう。この議論は、次稿で詳しく扱いたい。