ワシントンの警告に背いて、ヨーロッパ問題に足を踏み入れたアメリカ合衆国は、以後、世界各地での紛争に関わるようになってゆくのだが、この第一次大戦の処理に関して禍根の残る立場に与することになった。
(「戦争の世紀」、桜井哲夫著、平凡社新書より抜粋)
脱領域的な思想家であったグレゴリー・ベイトソン(1904?80)が、このアメリカの体験について、きわめて興味深い指摘を行っている。
ベイトソンは、1966年にカリフォルニア州サクラメント・カレッジでおこなった講演の中で、20世紀を決定づける出来事として、二つのことを挙げている。
ひとつは、彼の仕事とつながり、20世紀後半の世界を決定づける概念である、ノーバート・ウィナーのサイバネティックス概念の発見であるが、もうひとつ挙げられた出来事は、おそらくその講演を聞いていた学生などにとって予想外のものであったに違いない。
その講演のなかで、ベイトソンは、第一次大戦直後ヴェルサイユ条約の締結に至る一連の出来事をサイバネティックスと並んで20世紀のなかで最も重要な出来事だと述べたのであった。そして彼は、自分にとっての歴史的重要性の基準について語っている。
人間を含めた哺乳動物にとって生きてゆくうえで最も重要な問題とは、自分たちの関係のパターンなのだ。面と向かった相手との愛や憎しみや依存などの関係のなかで自分がどのような位置に置かれているのかを知るということほど、生きてゆく上で重要な問題はない。
だから、歴史のなかで、人々の態度が変化した、つまり定着していた価値体系が裏切られてしまったときには大きな苦痛が生ずることになる。
ではヴェルサイユ条約の締結のときはどうであったか。
ドイツの敗北が明らかになってきていた時期に、ジョージ・クリールというPRの専門家が、穏やかな講和条件を提示すれば、ドイツはきっと降伏してくるだろうと考えた。かくて懲罰的な措置を含まない14カ条の案が彼の手によって作成され、合衆国大統領ウッドロー・ウィルソン(1856?1924)のもとに送られたのである。
いま現在のルールの中でどう動くのがベストかということを思い悩むのではなく、過去十年、二十年、われわれを縛りつけ動かしてきたルールからどうすれば抜け出せるのかということを考えなくてはならない。問題はルールの変化なのです。p.683
メモ
投稿日:2022/05/16
修正日:2022/05/16