ネラ・ラーセン(NellaLarsen)2の『パッシング』(Passing,1929)に登場するのは、白い肌の色を利用して、黒人社会と白人社会の境界線を越境する黒人女性たちである。『パッシング』は従来パッシング小説という枠組みで人種問題を主に分析されてきた。しかし90デボラ・マクダウェル(DeborahE.McDowell)は「名前のない、恥ずべき衝動」(“The“Nameless…ShamefulImpulse”:SexualityinNellaLarsen’sQuicksandandPassing,”[1986]1995)において、アイリーンとクレアのレズビアン的関係を『パッシング』の中心的なテーマとして読み解く試みを行い、その後特にセクシュアリティ研究の対象として、登場人物の関係性に着目する研究が多くなされるようになっている
大橋稔. (2013). ネラ・ラーセンの 『パッシング』: 黒人女性のパッシングと連帯, そして成功. 国際文化研究所紀要, 18, 87-103.
- ネラ・ラーセン Nella Larsen -
「白い黒人 Passing 」
- レベッカ・ホール Rebecca Hall -
<黒人女性文学を代表する作家>
「パッシング Passing」という原題を「白い黒人」と訳したタイトルに先ず興味をそそられました。そして、本の装丁の怪しい美しさにもひかれ、内容は全く知らずに読みました。この小説が書かれた1929年という年は、大恐慌を翌年にひかえた古き良きアメリカ最後の年です。そして、この小説にも登場するニューヨークのハーレムでは、当時黒人文化の花が咲いており、それは「ハーレム・ルネッサンス」と呼ばれていました。音楽やダンスなどエンターテイメントの分野での黒人たちの活躍はこの時代を象徴するものといえます。ジャズ界のデューク・エリントンやダンサーのジョセフィン・ベイカーは、その代表的存在でしたが、同じ時代、演劇や文学の世界でも黒人たちの活躍は活発化していました。そして、この小説の作者ネラ・ラーセンは、この小説が高く評価されたことで黒人女性として初めてグッゲンハイム財団からの奨学金を得たことで黒人女性文学の歴史に新たな1ページを記すことになりました。その後、彼女の作品はノーベル文学賞作家のトニ・モリソンなどの黒人女性作家たちに大きな影響を与えることにもなります。その影響は今も続き、本書は2006年になって新訳で日本版が出版されています。それは本書が今読んでもまったく古さを感じさせず、今につながる魅力を持ち続けているからだといえるでしょう。それは、この小説が複雑で奥の深い内容をもち、その結末もまた読者によって様々な解釈が可能になっているからであり、今でも読者にその解釈を求め続けているのです。
映画「PASSING - 白い黒人- 」
「パッシング」とは、肌の色の白い黒人が自らを白人と称して行動する実践である。幼なじみの女性が再会する。どちらもパッシングができるほど肌が白いが、アイリーンは黒人社会で堅実な家庭を築き、クレアは黒人であることを隠して白人と結婚生活を送っていた。クレアが子ども時代に暮らしていた黒人コミュニティに惹かれ、再接近したとき、事件が起きる。
パッシング/流砂にのまれて
PASSING / QUICKSAND
投稿日:2022/06/03
修正日:2022/06/03